姫路市飾磨の調剤薬局
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妊娠中に薬はどのように影響するのか(解熱鎮痛薬を例に)

妊娠と薬については様々なサイトやブログで公開されています。公的なサイトや立派なサイトがあるのに、あえて当ブログで書く必要があるかどうかは微妙ですが、一応書いておこうと思います。

薬による奇形は多くない

薬による奇形は意外と多くありません。

成書を見てみると、

米国での調査では、奇形などの明らかな先天異常の頻度は2~4%を占めており、その65~70%が原因不明であり、25%が遺伝的要因によるもの、3%が染色体異常、3%(1~5%)が母体の環境的要因(薬、放射線、感染など)によると言われている。

浦部晶夫/島田和幸/川合眞一、「今日の治療薬 2017」、南江堂、2017年、P.7

つまり薬による影響は単純計算で2~4/100×1~5/100ということです。特に注意を要する薬以外はほぼリスクがないと言ってよいでしょう。

胎児の成長過程と薬の影響

リスクが少ないと言っても、なぜそうなのか知りたいでしょう。薬の影響は胎児の成長に直結しているため、胎児の成長過程について薬という観点から見てみましょう。

受精前から妊娠第3週まで

受精から5日前後には受精卵が子宮内腔に達し、6日前後に着床し始める。着床は受精から10日前後には完了しているとされる。着床する時、受精卵は胎盤胞と呼ばれる状態にある。・・・(中略)・・・子宮内膜に完全に埋没して分化する。

林晶洋/佐藤孝道/北川浩明、「実践 妊娠と薬 第2版」、株式会社 じほう、2010年、P.4

着床前後までの期間です。胎児の細胞分裂は始まったばかりで器官ができる時期ではありません。この時期は薬が何らかの影響を及ぼそうにも、この時期に起こる薬の問題は子供が出来る出来ないの問題になります。つまり、仮に薬による影響があったとしても精子や卵子が受精能力を失うか、着床しないかなどで奇形や胎児の毒性といった問題にはなりません。ただし、体に長く残留する薬については影響が残ります。

第4週から15週まで

下図のように、この期間に様々な胎児の器官が形成されることが分かります。この時期に薬によって何らかの影響を受けると、その器官が正常に形成されず奇形につながる恐れがあります。薬のこういった性質を催奇形性と言います。妊娠4週から16週、特に8週あたりまでが薬に対して敏感に影響される期間だということが分かります。

16週から分娩まで

あとは大きくなるだけです。器官が出来上がっているのでほとんどの薬で奇形が起こることはありません。しかし、奇形以外にも胎児に対する悪影響はあります。この時期の薬の影響を胎児毒性と言います。胎児毒性のある薬は胎児などに影響して胎児や新生児の健康上さまざまな問題を引き起こします。催奇形性が胎児の器官の形成異常であることに対して、名前の通り胎児毒性は出来上がった胎児の器官への毒性です。

わずかですが、この期間でも奇形を引き起こす恐れがある薬もあります。例えば抗凝固薬のワルファリンや胃薬のミソプロストールです(必ず奇形になる訳ではない)。

医療関係者はどう対処しているか

ソースは何?

薬の事で何かあれば、兎にも角にも添付文書です。 医療用医薬品の箱の中には、薬と一緒に説明書みたいな感じのものが入っています。これが添付文書です。添付文書は一般の方でも見ることができ、独立行政法人医薬品医療機器総合機構が添付文書の検索ページを公開しています。

例えば「ロキソニン錠60mg」を検索してみると、

妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。]

と記載されています。このような記載はロキソニンに限ったことではありあません。数多くの医薬品で安全性が確立されていないことから「治療上の有益性が・・・」と書かれています。

それをどう判断する?

さて、これを見て何かが解決されるでしょうか。

問題点は2つです。1つは妊婦において安全性を確立させるということが出来るかという点です。医学的な知見をはっきりさせるには臨床研究を行うしかありません。それも無作為化試験でなければ信頼性に問題が生じ、「確立」なんて言葉を易々と使えません。しかし、妊婦を対象とした臨床試験なんて倫理上出来るわけありません。妊婦や胎児の安全性を確立させることが不可能なのです。

もう一つの問題は有益性と危険性の情報が添付文書には書かれていないところです。有益性と危険性に関しては、お上のお墨付きの資料が存在しないということです。これはかなり苦しいことです。それ相応の信頼性のある基準もなく危険性と有益性の判断なんてできません。こういったことから、それなりに公的で妥当性のある資料が必要となってきます。

他に資料は無いのか?

そこで、海外に基準を求めることになるのが一般的です。米国やオーストラリアでは公的機関がそういった基準を作成しています。どちらも有用なのですが、有名どころのハンドブックに引用されるなどして、医療関係者の間では特に米国のFDA基準が参考にされています。このFDA基準のPregnancy Categoryという分類が2015年6月30日に廃止されたものの強い影響力を持っています。

その他、一出版社が出した書籍や必要に応じた製薬会社への問い合わせで対応しています。

 

この段落で言いたかったことは、妊娠と薬に関する問題はとてもデリケートで具体的なケースに対して一律に論じることは苦しいということです。同じような状況にある患者さんでも個人個人で判断の分かれることがよくあります。この時、患者と医療提供者の間のしっかりとした信頼関係が必要になります。ネットでの情報も多くありますが、最終的には実際に接する専門家の意見を尊重することをお勧めします。

 例えば解熱鎮痛薬

頭痛などでよく使われている解熱鎮痛薬のNSAIDを例に挙げてみます。NSAIDは市販薬で言えばロキソニンやイブプロフェンなどがそれに当たります。上記のFDA基準のPregnancy Categoryを見てみましょう。日本ではロキソニンは有名ですが、米国ではそれほど有名ではありません。米国でよく使われるNSAIDと言えばイブプロフェンでしょう。イブプロフェンの基準はFDA、オーストラリア医薬品評価委員会ともにカテゴリーC に分類されています。

米国FDAのPregnancy CategoryのカテゴリーCとは

動物実験を用いた研究では、薬物に催奇形性、または胎児(芽)致死作用が証明されており、ヒト妊婦での対照比較試験は実施されていないもの。あるいは、ヒト妊婦、動物ともに研究が入手できないもの。
(今日の治療指針より)

オーストラリア医薬品評価委員会の分類基準のカテゴリーCとは

その薬理作用によって、胎児や新生児に有害作用を引き起こし、または、有害作用を引き起こすことが疑われる薬だが、奇形を引き起こすことはない。これらの効果は可逆的なこともある。
(今日の治療指針より)

比較するとイブプロフェンには奇形は無いが他に有害な作用があるような感じです。大雑把にはこんな感じです。

さて詳しく見ていきましょう。

受精前あたりから妊娠前期

妊娠前期の問題は、あまり薬理作用から推察できるものでもないので論文から引用してみます。

まず、流産のリスクについてFDAが言及していますが、

複数の研究を評価したもののバイアスがあったり、一貫した結果が得られなかったりで、

Based on our evaluation of these observational studies, we believe that the weight of evidence is inconclusive regarding a possible connection between NSAID use and miscarriage.

上記観察研究の評価に基づけば、NSAID服用と流産との間に起こりうる関係についてはエビデンスの重さが決定的なものでは無いと我々は信じている。(拙訳)

と根拠に薄いようです。

これは、普段、頭痛薬を飲んでいて後で、妊娠が判明したからと言って不安にならなくてもいいということが分かる内容です。

第4週から15週まで

催奇形性は否定できるという趣旨の論文が結構あります。例えば、

To date, studies have failed to show consistent evidence of increased teratogenic effects in either humans or animals following therapeutic doses during the first trimester.

これまで、妊娠初期に治療的投与したヒト、動物のいずれにおいても催奇形作用が増大するという一貫性のあるエビデンスを研究によって示すことはできなかった。(拙訳)

妊娠前期の安全性は大丈夫と考えて良いでしょう。

16週から分娩まで

NSAIDは体の中のプロスタグランジン(PG)とよばれる物質の生成を邪魔することでその効果を発揮します。痛みを改善するのはいいのですが、プロスタグランジンは血管を拡張する作用があります。つまり解熱鎮痛薬を服用するとプロスタグランジンが抑制されて血管が収縮することになります。

ところで、胎児は肺で呼吸はしていません。母体からの動脈血から酸素を供給しています。こういったことから胎児の肺動脈はあまり血液が流れておらず、心臓の右心室からの血液の大部分は大動脈へ流れていきます。通常成人であれば、右心室からの血液は肺動脈のみへ流れるようになっています。

NSAIDを服用すると上記のように動脈管が収縮します。すると、右室からの血液は大動脈に流れることができず、成人のように肺動脈に流れ込むしかなくなります。すると、肺動脈の血圧が上がり胎児に肺高血圧と右心不全が引き起こされます。この状態は出産後も続き、新生児には強いチアノーゼが引き起こされます。

つまり、妊娠後期ではロキソニンやイブなどのNSAIDを服用してはいけません。添付文書でも禁忌に該当します。通常、妊娠後期の痛み止めとしては血管収縮作用の弱いアセトアミノフェンがよく選ばれます。

NSAIDまとめ

このようなことからNSAIDは妊娠初期の流産リスクが微妙ではあるが、催奇形性は否定できる。基本的には妊娠後期に問題を起こす医薬品であることが分かります。というか妊娠後期では禁忌です。この上で、有益性と危険性のバランスが図られるということです。

最後に

妊娠と薬に関する問題はデリケートで、患者さん個人個人で判断の分かれることがよくあります。多少のリスクを侵してでも薬を服用しなければならないケースもあるでしょう。この時、患者と医療提供者の間のしっかりとした信頼関係が必要になります。ネットでの情報も多くありますが、最終的には実際に接する専門家の意見を尊重することをお勧めします。

※この記事は特定の薬や使用法を否定・推奨するものではありません。責任は負いかねますので、実際の服用に関しては自己判断は控え、専門家に相談するようにして下さい。

※写真はイメージです

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