姫路市飾磨の調剤薬局
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薬局関係者から見る薬局距離制限事件

憲法

薬事法に対して違憲判決が出た例としては薬局距離制限事件が有名です。

法学では有名な事件ですが、薬剤師の間ではあまり知られていない事件です。

最高裁判例に沿って紹介します。

概略

40年以上前の判決です。

広島県で薬局を立てようとした会社が、許可の申請をしました。

ところが受理後、薬事法(現在の医薬品医療機器法)が改正されて、既存の薬局から一定の距離内には新規で薬局を開設できなくなりました。

行政が薬局同士の距離を制限することは憲法に違反するのではないか?

憲法に規定する営業の自由が最高裁での争点です。

該当する法令

改正薬事法

(許可の基準)
第6条 次の各号のいずれかに該当するときは、前条第一項の許可を与えないことができる。
一 その薬局の構造設備が、厚生省令で定める基準に適合しないとき。
二 申請者(申請者が法人であるときは、その業務を行なう役員を含む。第十三条第二項において同じ。)が、次のイからホまでのいずれかに該当するとき。
イ-ホ (省略)
2 前項各号に規定する場合のほか、その薬局の設置の場所が配置の適正を欠くと認められる場合には、前条第一項の許可を与えないことができる。ただし、当該許可を与えない場合には、理由を附した書面でその旨を通知しなければならない。
3 都道府県知事は、前条第一項の許可の申請について前項本文に規定する事由があるかどうかを判定するには、地方薬事審議会の意見を開かなければならない。
4 第二項の配置の基準は、住民に対し適正な調剤の確保と医薬品の適正な供給を図ることができるように、都道府県が条例で定めるものとし、その制定に当たつては、人口、交通事情その他調剤及び医薬品の需給に影響を与える各般の事情を考慮するものとする。

4に基づき広島県の条例で具体的な距離制限が規定されました。

立法趣旨

最高裁判例より引用すると

一部地域における薬局等の乱設による過当競争のために一部業者に経営の不安定を生じ、その結果として施設の欠陥等による不良医薬品の供給の危険が生じるのを防止すること、及び薬局等の一部地域への偏在の阻止によつて無薬局地域又は過少薬局地域への薬局の開設等を間接的に促進することの2点を挙げ、これらを通じて医薬品の供給(調剤を含む。以下同じ。)の適正をはかることがその趣旨であると説明しており、薬事法の性格及びその規定全体との関係からみても、この2点が右の適正配置規制の目的であるとともに、その中でも前者がその主たる目的をなし、後者は副次的、補充的目的であるにとどまると考えられる。

主な目的は、薬局の乱立→経営の不安定化→乱売による不良医薬品の供給を防ぐこと。

副次的な目的は無薬局地域の解消です。

過当競争による倒産からの薬局の保護は目的に含まれないことがポイントです。

趣旨に対する最高裁判示

立法趣旨を主な目的と副次的目的に分けて考えます。

主な目的

常時行政上の監督と法規違反に対する制裁を背後に控えている一般の薬局等の経営者、特に薬剤師が経済上の理由のみからあえて法規違反の挙に出るようなことは、きわめて異例に属すると考えられる。このようにみてくると、競争の激化―経営の不安定―法規違反という因果関係に立つ不良医薬品の供給の危険が、薬局等の段階において、相当程度の規模で発生する可能性があるとすることは、単なる観念上の想定にすぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたいといわなければならない。

「制裁」という表現は少し笑ってしまいました。

現在も変わりませんね。

当店のエリアにある保健所の担当者の方は本当に親切ですが。

日頃から行政に怯えている薬局経営者や薬剤師が金銭目的で法律違反を起こすことは極めて稀である。

競争の激化―経営の不安定―法規違反なんてものは思い込みですよ。

合理的な根拠を出してください。

ということです。

副次的目的

薬局等を自己の職業として選択し、これを開業するにあたつては、経営上の採算のほか、諸般の生活上の条件を考慮し、自己の希望する開業場所を選択するのが通常であり、特定場所における開業の不能は開業そのものの断念にもつながりうるもの

「都会で薬局を作れなかった…じゃあ、仕方ないから田舎で作ろう。」

そんなこと考える人なんていませんね。

必死で調査をして、身銭を切って、リスクを負って、「この場所だから」開設するものです。

薬局等の偏在防止のためにする設置場所の制限が間接的に被上告人の主張するような機能を何程かは果たしうることを否定することはできないが、しかし、そのような効果をどこまで期待できるかは大いに疑問であり、むしろその実効性に乏しく、無薬局地域又は過少薬局地域における医薬品供給の確保のためには他にもその方策があると考えられるから、無薬局地域等の解消を促進する目的のために設置場所の地域的制限のような強力な職業の自由の制限措置をとることは、目的と手段の均衡を著しく失するものであつて、とうていその合理性を認めることができない。

そんなことを考える人もいるかもしれないから全く効果がないとまでは言わないが、目的と手段が一致してない。

合理的ではないとのことです。

厳格な合理性の基準

どちらの目的についても「合理的」という言葉が出てきました。

合理性に乏しい規制はダメなのでしょうか。

薬事法の当該条文の目的は

主として国民の生命及び健康に対する危険の防止という消極的、警察的目的のための規制措置であり、そこで考えられている薬局等の過当競争及びその経営の不安定化の防止も、それ自体が目的ではなく、あくまでも不良医薬品の供給の防止のための手段であるにすぎないものと認められる。

「消極的、警察的目的」。ここがポイントです。

夜警国家と福祉国家、高校の現代社会の範囲ですね。

こちらは夜警国家的な目的で、国家は必要最小限の役割さえすれば良いとの考え方です。

最小限とはどういうことかと言うと

その合憲性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要し、また、それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく、自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的、警察的措置である場合には、許可制に比べて職業の自由に対するよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によつては右の目的を十分に達成することができないと認められることを要するもの

その規制が憲法に違反しないためには、ゆるやかな規制では達成できない場合で、必要かつ合理的な措置であることを要します。

今回の事件では、許可取消処分といった強力な規制ではなく、仕事内容に対する規制をまず行って、それがダメならその規制でなければ目的を達成できない規制をかけるべきということになります。

言い換えれば、その規制には厳格な合理性があって初めて認められるということです。

これをその名の通り、厳格な合理性の基準といいます。

明白性の原則

では、その逆はあるのかというと、同じ判例で小売市場距離制限事件を挙げています。

この事件でも薬局と同様に小売店同士の距離制限について争われました。

しかし、こちらは合憲でした。

何が違うのでしょうか。

それは目的です。

小売市場の距離制限の目的は「小売商の事業活動の機会を適正に確保し、及び小売商業の正常な秩序を阻害する要因を除去し、もつて国民経済の健全な発展に寄与すること」という福祉国家的目的である点です。

薬局距離制限の目的は夜警国家的目的なので反対ですね。

小売市場の場合は社会的・経済的弱者を保護するための規制なので、その規制が著しく不合理であることが明白である場合に限って違憲となります。

これを明白性の原則といいます。

 

受理されて半年近くも放置され、その間に法が改正されて、それを元に不許可処分に至る。

許可申請をした側からしてみれば、たまったものではありませんね。

当時どんな状況だったのか。

気になるところです。

なお、現在は受理後、遅滞なく許可が下りるようになっています。

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